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塵から星へ

From Dust to Stars - Minazuki - Photobook / CD


  • タイトル:塵から星へ
  • アーティスト:水鳴月
  • メンバー:アンドリュー・チョーク、ジョナサン・コルクロー、ヒトシ・コジョウ
  • 曲名 [時間]:1. 雪解雨 [7:58]、2. 翠雨 [9:08]、3. 催花雨 [3:36]、4. 狐の嫁入り [6:43]、5. 天水 [12:12]、6. 天泣 [4:07]
  • フォーマット:28ページフォトブック + CD、デジタルファイル
  • 発行部数:初版、100部、番号入り
  • 発行年月:2025年12月
  • レーベル:omnimemento
  • カタログナンバー:om 21

  • アーティスト・エディション:調色シアノタイプセット + フォトブック/CD

▶ 提供形態   ◈ ストリーミング  フォトブック/CD  調色シアノタイプセット

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  • 演奏:
    チョーク:ギター、サズ、チューニングフォーク
    コルクロー:ライブ・プロセッシング、シンギングボウル、エクステンデッド・ピアノ
    コジョウ:プリペアドギター、チューニングフォーク、ツィター、ピアノ、スライドリコーダー、エフェクター
  • 録音:2006年6月7日、イギリス・ハル(インプレッション・ロアンタン)
  • 編集・追加録音:2009年、ヴェヴェイ・スイス 担当:コジョウ
  • 再編集・マスタリング:2025年、スカールベーク・ベルギー 担当:コジョウ
作品によせて

2006年6月、イギリス北部ハル。
アンドリュー・チョークの木の柔らかな反響が美しいスタジオで、特に決め事のないまま、三人の演奏者が静かに楽器を手にした。
柔らかくリラックスした空気のなか、互いの呼吸の速度や、湿度や空気の濃淡の変化に伴うように音は流れ始め、セッションは長い時間をかけて形を成していった。

チョークは、1980年代後半より、独自の静謐さと深度を持つ作品をつくり続けてきた音楽家である。
その後、多くのアンビエントミュージシャンが彼の影響を受けてきたが、一定の透明感と重なりを保ちながら、気象のように変化し続ける彼の音響は未だに唯一無二のものである。
ジョナサン・コルクローは、音の素材を抽象的な響きへと還元し、環境や空間そのものの質感を探るような、エレクトロニックドローン音楽のパイオニアの一人である。
ヒトシ・コジョウは、環境音・物音・楽器の境界をゆるやかに横断しながら、演奏と編集を組み合わせた録音作品やインスタレーションを作ってきた。

しかし、このスタジオでの演奏は、誰のソロ作品にもよく似てはいなかった。
チョークの弦楽器は、普段のようにエフェクトと演奏が溶け合う抽象的な音像ではなく、木材の響きをそのまま受け取るような生々しい揺らぎを保っている。
コルクローは控えめながら、空気の濃度に変化を与える層として存在し、
コジョウは、チョークとの弦の対話を軸にしながら、時にノイズを孕んだ揺らぎや、異なる倍音同士の緊張を折り重ね、セッション全体の流れに呼応する響きを編み出していった。

その結果、この作品には「誰のスタイルでもない音楽」が現れている。
それでいて三人の背景にある風土や感覚は残り、異なる湿度や視線が同じ音の場に重なっている。
東洋的な“間”を軸に進む曲には、イギリスの演奏家だけでは生まれなかった揺らぎがあり、
反対に、曇り空と光が溶け合うような持続音の広がりには、日本の奏者だけでは作り得ない色調が宿る。
旋律が姿を見せる曲では、イギリス的な要素と日本的な要素が自然に混ざり、
どこの国のいつの時代とも知れない、架空の民謡のような響きが立ち上がる。

アルバムの各曲には「雨」にまつわる名がつけられている。
日本、そしてイギリス北部の双方には、細かな違いの雨を表す語彙が豊かに存在する。
この録音がちょうど日本の梅雨にあたる6月に行われたこともあり、
ユニット名 “水鳴月(Minazuki)” は、その季節の気配と重なり合っている。

このアルバムは、2006年の長尺なスタジオセッションをもとにしている。
その後、2009年のスイスでの編集作業と控えめな追加録音を経て、
さらに2025年、ベルギーで再編集とマスタリングが施された。
三つの土地と長い時間が、ひとつの音楽の中に沈殿し、透明度の異なる層として積み重なっている。

『塵から星へ』は、各々の“ローカルな感覚”と、土地や時代を超える抽象性が同時に存在する稀有な作品である。
三人の個性が混ざりきる前に、微細な粒子のまま共存し、
ひとつの気象として立ち上がった音楽。
これは、誰かの模倣でも、三つのスタイルの折衷でもない。
偶然、場所、人、そして時間が同じ方向へ向いたときにだけ現れる、
名前のない音楽の記録である。

CDは、コジョウによる28ページのフォトブックに付随して発表される。
収録された写真は、加工した白黒フィルムを用い、カメラ内で多重露光したシリーズである。
植物や森の風景、フィルムの粒子や溶けたエマルジョン、付着した塵の層が重なりあい、
複数の時間が同じ面に沈殿するような像が立ち上がっている。
音楽の中にある「層」や「気配の残響」と呼応し、
一度に捉えきれない記憶の表面が静かに揺らぐようなイメージが並ぶ。

同時に、同タイトルの変色シアノタイプ作品セットも発表される。
フォトブックに収録された20点から選ばれた8枚をもとに、
コジョウが手作業で感光液塗布、露光、脱色、カテキンによる変色を施したプリントである。
光、水、紙、温度、そして時間の反応がそのまま定着し、
一枚ごとに異なる深度と風合いを宿している。
写真を収める和紙仕上げのハードカバーポートフォリオも、すべてコジョウ自身の制作によるもの。
音と光、その痕跡を受けとめる紙が、離れた場所で生まれたもの同士のつながりをそっと映し出す。

コジョウ ヒトシ、ブリュッセル、2025年11月


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